2022年度第3回研究会報告

 

実施日時:2023324() 15:30~18:00

実施形態:オンライン


【報告①】

報告者:西道氏(京都大学大学院人間・環境学研究科研究生)

報告タイトル:Palestinians in Israel and the Future Vision Documents: Searching for a way to binationalism

報告では、2006年~07年に発表された未来構想文書(Future Vision Documents)をもとに、イスラエル国内のパレスチナ人が提示する自己認識や二民族国家の構想が紹介され、文書の登場の背景についての長期的・短期的要因の考察が行われた。短期的要因として、2000年代にイスラエルのユダヤ系市民の間で、イスラエルの政治体制や「ユダヤ的かつ民主的国家」についての内実を確定させようとする議論が加速したことが指摘された。長期的要因としては、オスロ合意の結果として孤立化したイスラエル国内のパレスチナ人の地位をパレスチナ解放闘争史およびイスラエル国内政治で位置づけなおす必要性があったことが指摘され、この時期に積極的な活動を展開したアズミー・ビシャーラらイスラエル国内のパレスチナ人の主張が整理された。その後、未来構想文書の一つ「ハイファ宣言」に焦点を当て、二民族国家に向けた展望を困難にする政治・社会的文脈やパレスチナ民族運動の衰退が分析された。

 

【報告②】

報告者:マジード・シハーデ(ダール・アル=カリマ大学)

報告タイトル:Settler colonialism in Palestine in a comparative perspective

 報告では、従来の植民地主義と入植者植民地主義の違いとして、前者が先住者の労働力の搾取を目的とした一時的な現象だった一方、後者は先住者の排除を目的として恒久的な構造として植民地に留まり続ける点が指摘された。アメリカ、オーストラリア、南アフリカ等の入植者植民地の事例と比較した際のイスラエルの特殊性として、入植事業をユダヤ教と結びつけた点や、常に支配地を拡大させてきたために国境が画定せず、憲法など政治体制の基礎を未確定のままにしている点が示された。入植者植民地主義の終結のための先行事例では、一般には南アフリカのアパルトヘイト体制の終結に言及されることが多いが、報告者は南アフリカでは白人による大部分の土地の支配が続いていることから、先住者自身による統治の確立を提起してアルジェリアの事例も参照項とする必要性も提起した。

 

議論では、戦前の日本のキリスト教シオニズムと植民政策の関係史を専門とする役重善洋氏がコメンテーターとして、日本の満州侵略の口実の一つとなった万宝山事件(1931年、中国北部の長春で朝鮮人入植活動を進め、現地の中国人農民との対立を起こし、日本警察の介入を招いた事件)をもとに、日本の入植者植民地主義の事例が紹介された。また、2000年代の未来構想文書と2021年に起きた「統一インティファーダ」との関係や、パレスチナとの他地域の被抑圧集団との交差的連帯の可能性、民主的一国家構想の内実、パレスチナ問題を語る際に用いるアパルトヘイト、民族浄化、ジェノサイドといった枠組みそれぞれが持つ政治的含意などが話題にのぼり、パレスチナの現実の理解につながる論点が幅広く示された。

(文責・金城美幸)