【 ご案内】関西パレスチナ研究会 2017年度第2回研究会

■日時 2017年10月7日(土) 13:00~18:00
  Date   October 7(Sat), 2017      13:00~18:00

■場所    立命館大学大阪いばらきキャンパス B棟4階研究室1
  Venue    Ritsumeikan University, Osaka Ibaraki Campus
                Reseach Room 1 (4th Floor in Building B)

   *アクセス : http://www.ritsumei.ac.jp/accessmap/oic/ (日本語)
    For Access: http://en.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=246773&f=.pdf(ENG)

■プログラム(予定)/ Program

13:00~15:00
研究報告① 田浪亜央江 Aoe Tanami
                   (広島市立大学国際学部 / Hiroshima City University)
「オスマン末期パレスチナ人の旅と望郷 ハリール・サカーキーニー日記を中心に」(日本語での報告)

15:10~17:10
調査報告② イヤス・サリーム Iyas Salim
                  (同志社大学高等研究教育機構 / Organization for Advanced Research
and Education, Doshisha University)
"Second-Chance Education, The Case of Palestine:  Education Under
Occupation"(英語での報告、通訳なし)

*終了後、運営についての話し合いを行ってから懇親会を行います。
*ご参加の方は、資料準備の関係上、事務局の金城( honeyneypool[at]gmail.com :[at]は@に変えてください)までご連絡ください。

■主催:関西パレスチナ研究会
   (http://kansai-palestinestudies.blogspot.jp/
■共催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 中東イスラーム研究拠点
   (人間文化研究機構「現代中東地域研究」事業)

【報告】2017年度第1回関西パレスチナ研究会


実施日時:2017年6月3日(土) 13:00~18:00
実施場所:京都大学総合研究2号館(旧・工学部 4号館)4階 AA401

【研究報告】「『アラブ系ユダヤ人』をめぐる諸言説および研究動向」
天野優(同志社大学大学院神学研究科・学振特別研究員DC)

 天野氏の報告は、サミー・ミハエルやサミール・ナッカーシュといったイラク系ユダヤ人作家たち、また彼らの文学作品を取り上げ、これらがイスラエル国内でみられる「文化的再アラブ化」の動きといかなる関連を持ち得るのかについて問題提起した。
 天野氏は、執筆言語の切り替えに成功したミハエルとは対照的に、生涯アラビア語のみで執筆活動を続けたナッカーシュに注目した。彼の用いた言語、すなわちイラクのユダヤ人が話した言語のように、ディアスポラの言語が消えゆくなか、近年イスラエルでは「ユダヤ・アラビア語」という概念が盛んに議論され始め、「ユダヤ・アラビア語講座」の開講や政府主導の教育カリキュラム導入など官民の取り組みが見られ始めていることが説明された。これらの活動は、一見消滅が危惧される言語の保全計画にも見えるが、シオニストによるアラビア語とユダヤ文化の消し去りを阻止するものではなく、またその議論もユダヤ固有の問題領域として扱われることが多いという。そして、このような懸念から、天野氏はアラブ系ユダヤ人がイスラエル移住直後から経験してきた脱アラブ化というプロセスが、文化的な「再アラブ化」によって形成しなおされるかは疑問であることを指摘した。
 質疑では、「ユダヤ・アラビア語」の呼称や、ファルフードの語源について専門的な議論が交わされたほか、作家たちのイラク国内での身分や階層がイスラエルでの活動に与えた影響について質問が挙げられた。また、同報告はアラブのユダヤ人のアイデンティティを言語学の観点から問い直すという点で大変期待されるテーマであるとのコメントも聞かれた。


【調査報告①】「アメリカにおけるパレスチナ問題認識の現状」(役重善洋)

 役重氏は、ニューヨーク、ワシントンDCにおけるイスラエル・ロビーの動向とパレスチナ連帯運動の現状について現地報告を行った。Washington Reportカンファレンスの報告においては、近年共和党、民主党の対立がイスラエル・ロビーとの関係性にも共鳴し始め、とくにリベラルな民主党支持者の中にパレスチナにシンパシーを感じる人々が多くなっていること、またイスラエル・ロビイスト自身もその問題性を意識し始めていることがアメリカにおけるパレスチナ問題認識の一傾向として挙げられた。これに加え、役重氏が指摘するのは、政策決定者や軍関係者ら「専門家」の中には、依然「パレスチナ問題」に対する「民族紛争」という偏見が根強く、そういった認識の枠組みが問題の理解に深く入り込んでいるということである。
 質疑では、現地のパレスチナ系、ユダヤ系市民による抗議活動の現状や、ユダヤ系のいわゆるイスラエル離れの背景について質問が挙げられた。さらに現地の状況を知る参加者からは、地方議会や、個別の大学におけるロビー活動や草の根レベルの運動がイスラエル・ロビイストたちの危機感の裏返しであるともいえるといった意見が寄せられた。


【調査報告②】「ナクバ/イスラエル建国史のアーカイヴ比較」(金城美幸)

 金城氏は、イスラエルとパレスチナにおけるアーカイヴ構築の性格と近年の動向について報告を行った。最初に両者のアーカイヴの特徴について説明がなされた。パレスチナでは、アーカイヴ構築における金銭的、政治的困難さの中で、オーラル・ヒストリーを中心に、デジタル化・ウェブ化が進んできたが、近年では博物館建設など、箱物をつくる動きが見られ始めている。これは、博物館や公文書館設立を得意としてきたイスラエルが、近年オーラル・ヒストリーやネット上の史料公開に重点を置き始めたことと比較し、両者のアーカイヴ構築における逆向きの傾向ともいえる。イスラエルで進む文書デジタル化の動きは、閲覧者のアクセスの利便性を向上させたが、公開文書の内容すべてを国家が管理・検閲しているという問題点が挙げられた。パレスチナでは、パレスチナの通史作成の動きがある一方、その作成には占領下という構造上の問題に加え、長年の努力の上に資料収集を行ってきたNGOや個人の資料共有に対する抵抗感があることが課題として指摘された。
 質疑では、紹介された各アーカイヴの詳細について補足的情報が加えられたほか、パレスチナのアーカイヴ構築が、同地の歴史教育にいかなる影響・変化をもたらしたのか、といった質問が出された。同報告は、現地の実体験やアーカイヴへのアクセス手順の説明などとともにパレスチナ/イスラエル研究者にとって大変有意義な情報となった。

(文責:関口咲子)