2024年度第1回研究会報告

実施日時:2024年8月19日(月)15:00~16:30

実施形態:オンライン

【報告】
報告者:マジード・シハーデ氏(Dr. Magid Shihade)

報告タイトル: "Global Israel, Global Palestine: Settler Colonialism, Ruptures, and Connections"

報告者は、シオニズム運動とイスラエルの入植者植民地主義により、1948年以前に存在していたパレスチナ内部の繋がりとパレスチナと他地域との繋がりが絶たれたと指摘し、この繋がりを再活性化させることがパレスチナ人にとって重要な意味をもつと論じた。さらに、入植者植民地主義の特徴は排除/破壊の論理(logic of elimination)にあり、ガザでの虐殺やネゲヴ砂漠でのアラブ人差別等のイスラエルの行動は、パレスチナ人を経済的・社会的・政治的に排除/破壊(eliminate)するために行われているとした。そのうえで、イブン・ハルドゥーンの議論を取り上げ、歴史上存在した入植者植民地主義は全て失敗に終わってきたと指摘した。

報告者は次に、2023年10月に始まったガザ地区を巡る戦争はグローバルな紛争の一部であり、イスラエルの暴力の根底には、ヨーロッパにおいてアラブ人がヨーロッパ的なものに対する最大の敵と見なされてきたこと、及び、その中でイスラエルが東洋に対する西洋の前哨基地と自らを位置付けてきたことが関係していると論じた。そして、世界は今、戦争の拡大と長期化から利益を得る企業・国家群(グローバル・イスラエル)と、全ての人々の基本的人権の実現のために闘う人々(グローバル・パレスチナ)の間での闘争の最中にあり、後者においてパレスチナ人と連帯する人々が世界各地で増えているとした。

参加者との質疑応答と討論では、グローバル・パレスチナとグローバル・イスラエルの間でのグローバルな闘争において、サウジアラビアやエジプトなどのアラブ諸国をどのように位置づけるべきかという質問があった。報告者からは、アラブ諸国がいまだ欧米による植民地支配の枠組みの中に留まっており、指導層がパレスチナの側につくことを難しくしているとの回答があった。他にも、中国やトルコなどの成長著しい国々が、どのような影響を上記の闘争に与えるかという質問があり、報告者からはトルコは地域大国となるべく行動し、中国は戦争拡大を阻止しようと行動している一方、NATOや米国の求心力は世界的に弱まっていると回答した。また、ガザでのジェノサイドが停止した後の展開に関する質問があり、報告者は、世界各地でイスラエルへの圧力とボイコットの動きが一層強まると予測し、パレスチナは欧米に注力するのをやめ、アフリカやアジアのグローバル・サウスの市民社会との関係強化に注力していくべきだと論じた。

 (文責・今野泰三)